悲惨なニュースに恐怖や不安を感じた子どものケア【後編】

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一般的に、7歳未満にはニュースを見せないことが推奨されています。とはいえ、やむを得ず悲惨なニュースを目にしてしまうことはあります。そんな時、親には何ができるでしょうか?

覚えておきたい
  • 第1の解決策は、 世の中の現実について年齢にふさわしい情報を与えること
  • 第2の解決策は、恐れの感情を認めること

後編では、恐れの感情を認めてあげることでショックを和らげる方法について書きました。

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何事もないように振る舞うのが、子どもにとって有害な理由

身も蓋もない現実

能登半島地震の緊急ニュースを見ながら、私が息子にあれこれ説明しているのを聞いて、母が苦言を呈しました。

「『ライフ・イズ・ビューティフル』って映画、知ってる?ナチスに捉えられたユダヤ人の親子の話なんだけど、幼い息子を怖がらせないためにお父さんが機転をきかすの。『これはゲームだ』って教えて、身を隠させて、生き延びるのよ。防災教育は結構だけど、あんまり教え込むのもどうかと思うよ」

母の言いたいこともわかるのですが、あれはあくまでフィクション。現実は、機転がきくかや親子愛が強いかは関係なく、ユダヤ人はみんな死にました。現実は、容赦しません。

恐ろしいことが起きているのに、親が何事もないように振る舞うのは有害

ショッキングな出来事が起きた時、むごたらしい画像や動画を見せたり、何が起きたのかを詳しく解説する必要はありません。

子どもはただ、信頼する大人の口から、恐ろしいことが起きているけれど、困っている人を助けるために頑張っている人がいると聞きたいのです。親が口をつぐめば「言えないほど大変なんだ。一体どんなことが😨」と、恐怖の妄想が膨らみます。

アメリカで子どもたちへのグリーフケアに従事するカウンセラーのドナ・シャーマン氏は、こう語ります。(太字下線は筆者)

二〇〇一年の九・一一のテロ攻撃から数週間後、ワールド・トレード・センターの崩壊によって移転するこなった会社で働く親のグループにお会いしました。そのとき、あるお父さんが九月十二日から九歳の娘さんが吐いてしまって、寝たがらないと話してくれました。彼は何が起きたのか娘は知らないのだから、その症状とテロを結びつけて考えたりはできないと言いました。お父さんは自宅にはテレビもないのだし、娘さんは何も知らないはずだと「思い込んでいた」のです。私が事件のあと、娘さんが学校に行ったかどうか聞くと、行った、と言います。「学校ではみなそのことを話しているのではないでしょうか?」と私が尋ねると、彼は静かに「話していないといいのですが」と小さな声で言いました。 この娘さんがいかに混乱し、恐怖を感じていたか想像してみてください。大事件が起きて世界中が大騒動になっているのに、家族は絶対にそのことに触れないという作戦を立て、何事も起きていないように振る舞っていたのですから。お父さん自身の恐怖心と娘を守りたいという願いが、実際には娘さんをより苦しめ、混乱させてしまったのです。

P132-133 ドナ・シャーマン『親と死別した子どもたちへ ネバー・ザ・セイム』佼成出版会

能登半島地震では、大津波警報が出たのを見て「これはとんでもないことになる」と直感しました。

私はこのドナ・シャーマン氏のエピソードを記憶していましたから、「これほどの災害を、無かったことにはできない。だから何かが起きていることは認めよう」と決めたのでした。

ニュースに恐怖や不安を感じても、子どもは自分から言えない

子どもは親の様子を見て、言うこと・言わないことを決めている

子どもはバカじゃありません。大人の様子を見て、言いたいことを我慢したり、知らないふりをしたりする健気な人たちです。

子どもというのは、いちばん身近にいる親をよく観察しているものです。 おいしいものを食べたい、いいものが欲しいと思っても、親が一生懸命働いて、苦労しているのを見ると、そうそうわがままは言えない、おねだりは出来ないと思う。やりたいこと、言いたいことがあっても、それでじっと黙っていたりする。それが子どもというものの実態だと思うのです。

P142 かこさとし『未来のだるまちゃんへ』文藝春秋 Kindle版

親が動揺していたり、何もしらないフリをしていたりしたらどうでしょう?

子どもは恐怖や不安を言い出せません。

でも感情を押し殺していては、心身に不調をきたします。ですから親は、積極的に、子どもが胸の内を話せるような雰囲気作りをする必要があります。

怖いと言っても良いと、教えてあげる

そこで私は能登半島地震の速報を見ながら、息子に何度も伝えました。

少しでも、怖いと思ったらすぐに教えて

その晩の息子は、寝つきが悪かったです。いつもは寝かしつけなどいらないのに、そばにいてほしがりました。そして何回かトイレに起きてお茶を飲んだあと、「ちょっと怖い」と言いました。

私は怖いと言えたことを褒めて、完全に寝入るまでそばにいました。

「ほら、やっぱり!テレビを見続けるから怖くなっちゃったんだよ!」と責めてはいけません。責めたら、何も話してくれなくなります。

翌朝、息子は「地震の人たちの夢を見た」といって起きてきました。

「怖かったんだね。心配してくれて、やさしいね。でも、みんなもう大丈夫だから安心してね」

と伝えると、息子は日常へ戻っていきました。

感情を押し殺させると、共感力が失われる

子どもが真相を知りたがる本当の理由

私が初めて戦争報道を目にしたのは、5歳でした。家族で訪れたレストランのテレビが、ユーゴスラビア紛争を報じたのです。逃げ惑う市民の映像を見て、私は動揺しました。そのレストランはトルコ料理店だったのですが、5歳の子どもには、注文をとってくれた外国人と、テレビの中の外国人の区別がつきません。

私は「お店のおじさんたち、殺されちゃうの?」と動揺しました。「ユーゴスラビア紛争って何?何が起きているのか教えて」と、両親に問い詰めたことを覚えています。母はにべもなく、「あなたにはまだ早い」と説明を拒否しました。

確かに、ユーゴスラビア紛争を5歳児でもわかるように説明するのは難しいです。

ただ、私が知りたかったのは、細かい戦況や政治事情ではありません。「目の前の(推定)トルコ人のおじさんたちは、大丈夫」と、信頼できる大人に言って欲しかっただけなのです。

深刻なショックを受けると、人間は状況を正当化する

あまりにもショックなことが起こると、人間は心を守るために状況を正当化するようになります。

「こんなひどい目に遭うなんて、被害にあっている人にも相応の原因があるに違いない」と考えるのです。

私は8〜9歳くらいの夏休みに、NHKで戦争モノのアニメを見たのを覚えています。いま調べたら、「対馬丸 —さようなら沖繩—」という長編アニメでした。まぁ、内容は悲惨、悲惨!同じ年頃の子どもや周囲の人たちが、ボンボン死んでいく、夢も希望もない話です。

途中でやめればよかったのですが、主役を務めるのが田中真弓さんという大声優。私は彼女のファンだったものですから、テレビから離れられませんでした。キャスティングは大成功ですね。

さて、この救いのないアニメを見て思ったことを、私ははっきり覚えています。

「昔は、死が身近だった。だからこの人たちは、死ぬことに恐怖を感じないはず」(他者の苦しみの否定)

こんな船に乗るから酷い目に遭うんだ。最初から山の中で身を隠して暮らせばよかったのに」(状況の正当化)

私は、登場人物たちの苦しみを否定し、心をショックから守ろうとしたのです。

ショッキングな出来事が起きた時、むごたらしい画像や動画を見せたり、何が起きたのかを詳しく解説する必要がないという根拠の1つは、ここにあります。

他者に共感するためには、まず自分の感情を認めなければいけない

他人の苦しみを否定したり、状況を正当化するのは、「他者の靴を履く」(=共感)と真逆の思想です。

他者に共感するためには、まず自分の感情を認めなければなりません。子どもは気持ちを表す言葉をあまり持ち合わせていないですから、親がサポートしてやります。

ネガティブな感情を発露させる方法には、一般的にこのようなものがあります。

  • 「怖いといって良いよ」と、ダイレクトに言葉で伝える
  • 絵を描かせる
  • 再現あそびを奨励する

絵を描かせて困難を乗り越える、いわゆるアートセラピーは、難民支援の現場でも実際に行われています。戦争で家族を失った子どもが始めはむごたらしい光景を黒や赤で描くのですが、月日を重ねるごとに「子どもらしい」絵になっていくのです。

また再現あそびについては、以前、記事で取り上げました。例えば地震被害にあった子は、しばらく「地震ごっこ」をして遊ぶ傾向があります。再現あそびには癒し効果があるので、妨げてはいけないという呼びかけを、今回SNSで目にしました。

災害ニュースで恐怖を感じた子どもたちのメンタルケアについて、理解がすすんでいるようでありがたいです。

<前編はこちら>